プロ野球のオフに入ると、ニュースで必ず「FA権」という言葉が流れてきます。
ただ、名前は知っていても「何年プレーすれば取れるのか」「宣言すると何が起きるのか」まで説明できる人は、そう多くないはず。
しかも2026年10月30日、NPBと選手会が人的補償の廃止で合意しました。30年以上続いてきた仕組みが、ここから数年で入れ替わっていきます。
この記事では、FA権の基本から2026年の制度変更までを図で順番に整理しました。野球を見始めたばかりの人でも最後まで追えるように書いています。
- FA権は「次の球団を自分で選べる権利」
- 取得の条件は1軍登録145日以上のシーズンを8年(高校卒)または7年(大学・社会人卒)
- 海外FAは一律9年、2回目以降は4年
- 宣言しても元の球団に残っていい
- 補償は年俸ランクA・B・Cで変わり、人的補償は2027年オフから廃止
FA権とは?「球団を自分で選べる権利」のこと
FAは「フリーエージェント(Free Agent)」の略。
ひとことで言えば、次にどのユニホームを着るかを、球団ではなく選手が決められるようになる権利です。
プロ野球選手は、ドラフトで指名された球団としか契約できません。他球団に移りたくても、自分の意思では動けない仕組み。
その縛りが一定の年数で外れるのが、FA権だと考えてください。
「FA宣言」と「権利の行使」は同じ意味
ニュースでは「FA宣言」「FA権を行使」という言い方が混ざって出てきます。
どちらも中身は同じで、「私はこの権利を使って、他球団とも話をします」と球団に伝えることを指します。
逆に、権利を持っていても使わずに残留する選手は「行使せず」「権利を保持したまま残留」と報じられる形。
FA制度は1993年に始まった
日本プロ野球にFA制度が入ったのは1993年のオフから。NPBが公開している宣言選手の一覧も、この年が起点になっています。
それ以前は、どれだけ活躍しても自分の意思で球団を選ぶ手段がありませんでした。
30年以上かけて少しずつ条件が緩められてきた制度、という見方もできるでしょう。
権利を取っても、使わない選手のほうが多い
FA権は取ったらすぐ使わなければいけないものではありません。
取得したまま何年も同じ球団でプレーし、引退まで一度も行使しない選手もたくさんいます。
NPBは毎年10月に有資格者を公示していて、2026年も10月19日に発表されました。その中で実際に宣言するのは、毎年ひと桁から十数人ほど。
FA権は何年で取れる?【図で数える】
ここがいちばん分かりにくいところなので、先に図で見てしまいましょう。
ポイントは「年数」ではなく「1軍にいた日数」で数えること。
1シーズンは「1軍に145日いた年」
FAの計算では、出場選手登録(1軍登録)された日数が145日以上あったシーズンを1シーズンとして数えます。
入団してから8年目でも、ケガや2軍暮らしで145日に届かない年があれば、その年はノーカウント。
逆に、1軍に居続けた選手は入団年数と同じペースでマスが埋まっていきます。
145日に届かない年は、足し算できる
100日しか登録されなかった年が丸ごと消えるわけではありません。
145日に満たないシーズンの日数は合算でき、足して145日に達したところで1シーズン分として認められます。
ケガの多かった選手が、思ったより早く資格に届くのはこのためです。
高校卒は8年、大学・社会人卒は7年
必要なシーズン数は、入団時の区分と行き先の組み合わせ次第。
| 区分 | 国内FA | 海外FA |
|---|---|---|
| 高校卒 | 8シーズン | 9シーズン |
| 大学・社会人卒 | 7シーズン2007年以降のドラフト入団 | 9シーズン |
| 2回目以降 | 4シーズンで海外FAの資格を取り直せる | |
大学・社会人出身がひとつ短いのは、プロ入りの年齢が高いぶんを調整しているため。
なお故障者特例や投手の登録日数の特例で、日数が加算される場合もあります。
7年・8年は、思っているより長い
数字だけ見ると「8年なら普通に届きそう」と感じるかもしれません。
ただ、1軍に145日いる年を8回積み上げられる選手は、ごく一部です。2軍調整が長引いた年、ケガで離脱した年は、その分だけ到達が遠のきます。
選手会の資料によると、プロ野球選手の平均在籍年数は9年ほど。平均的な選手は、権利に届く前に現役を終える計算になりますね。
FA権の取得がニュースになるのは、そこまで到達すること自体が珍しいから、とも言えるでしょう。
2回目からは4年で取り直せる
一度FA権を使って別の球団と契約した選手は、そこから4シーズンで海外FAの資格を取り直せます。
移籍してすぐまた動けるわけではないものの、1回目の8年・7年と比べればかなり短い期間。
30代半ばの選手が「2度目のFA」で話題になるのは、この短縮があるからでしょう。
国内FAと海外FAは何が違う?
名前のとおり、行ける範囲が違います。
| 項目 | 国内FA | 海外FA |
|---|---|---|
| 契約できる相手 | 日本の12球団 | 12球団+海外の球団 |
| 必要なシーズン数 | 8年(高校卒)/7年(大学・社会人卒) | 9年 |
| メジャー移籍 | できない | できる |
海外FAのほうが年数は長いものの、国内FAの資格を先に取った選手が、使わずに海外FAまで待つという進み方もあります。
ただし国内FAを一度行使してしまうと、海外FAはそこから数え直しに。メジャー挑戦を考えている選手が国内移籍に慎重なのは、このルールが効いているからでしょう。
FA宣言から契約までの流れ(2026年の日程)
宣言できる期間は、意外と短く決められています。
手順は4つだけ。
- 日本シリーズが終わる(2026年は10月28日)
- その翌日から、土日祝を除く7日間のうちに球団へ意思を伝える
- 期間が終わった翌日、FA宣言選手として公示される
- 公示の翌日から、元の球団を含む全球団と交渉できる
2026年は日本シリーズが10月28日に終わったため、宣言の期限は11月9日。公示は11月10日、交渉解禁は11月11日という並びになりました。
宣言しても、元の球団に残っていい
ここは誤解されやすいところ。
FA宣言は「出ていきます」という意味ではなく、全球団と話をする権利を使うという意思表示にすぎません。
交渉した結果、元の球団の条件がいちばん良ければ、そのまま残留する選手もいます。いわゆる「宣言残留」ですね。
補償とは?ランクA・B・Cで中身が変わる
FAで選手が出ていくと、元の球団は戦力をただ失うだけになってしまいます。
そこで獲得した球団が、元の球団に「お返し」をする仕組みが用意されました。これが補償と呼ばれるもの。
いくら払うか、人を渡すかどうかは、その選手の年俸ランクで決まります。
ランクを決めるのは、元の球団の日本人選手だけを年俸順に並べたときの順位。外国人選手は、この順位に入りません。
| ランク | 年俸順位 | 人を出す場合 | お金だけの場合 |
|---|---|---|---|
| Aランク | 1〜3位 | 選手1人+旧年俸の50% | 旧年俸の80% |
| Bランク | 4〜10位 | 選手1人+旧年俸の40% | 旧年俸の60% |
| Cランク | 11位以下 | 補償なし | |
どちらを受け取るかを選ぶのは、選手が出ていった側の球団です。
お金を取れば即戦力は手に入りません。人を取れば、相手の戦力を1人削れる代わりに年俸の負担が増えます。どちらが得かは、その年のチーム事情で変わってくるところ。
Cランクなら補償が一切発生しないため、「補償なしで獲れる選手」として評価が上がる現象も起きます。年俸が11位以下というだけで、移籍先が見つかりやすくなるわけですね。
プロテクト28人のしくみ
人を受け取る場合、元の球団が好きな選手を指名できるわけではありません。
獲得した球団が、渡したくない選手28人をリストにして提出します。
元の球団が選べるのは、その28人に入らなかった選手の中から1人だけ。
ベテランや、伸びてきた若手が28人から漏れることもあり、毎年「誰を守るのか」が大きな話題になります。
抜けられる側から見たFA
私は横浜DeNAベイスターズを応援しています。
昨オフ、桑原将志選手がFA宣言して西武へ移籍しました。ランクはBだったので、人的補償の対象。
正直、かなりショックでした。若手の突き上げがあったのは分かっていたつもりでも、いざ抜けられると話は別で、2026年シーズンは結局センターの穴が埋まらないまま終わったというのが私の実感です。
そして人的補償としてDeNAが西武から獲得したのが、古市尊捕手。育成1位から支配下を勝ち取った23歳で、強肩が売りの選手でした。
「出ていった選手の穴」と「補償で来た選手」は、ポジションも年齢もまったく噛み合いません。補償は等価交換ではないのだと、応援する側になってみて初めて腹に落ちました。
人的補償はいつ廃止される?【2026年10月30日に合意】
ここからが2026年の大きな変更点です。
NPBと選手会は2026年10月30日、人的補償を撤廃し、ドラフト指名権の譲渡による新しい補償制度へ移行することで合意したと発表しました。
変わるタイミングは3段階に分かれています。
| 時期 | 何が変わるか |
|---|---|
| 2026年オフ | 翌年4月1日時点で35歳以上の選手は、金銭も人的補償も不要 |
| 2027・2028年オフ | 人的補償を廃止。元の球団がドラフト指名権か金銭かを選ぶ |
| 2029年オフ | 2年間の運用を見たうえで、あらためて見直す |
報道されている内容では、Aランクなら翌年ドラフトの2巡目指名権、Bランクなら3巡目指名権が元の球団に渡る形。ランクの区切り自体も見直される見込みです。
細かい条件は今後詰められる部分が残っているため、最終的な内容は公式発表で確認してください。なぜ人的補償がなくなるのか
選手会は以前から、補償制度が移籍のブレーキになっているとして撤廃を求めてきました。
獲得する側は「補償で若手を1人持っていかれる」というコストを嫌い、Aランクの選手ほど手が出しづらくなります。
そして人的補償で移る選手本人は、FA権を使ったわけでもないのに球団が変わることになる。この点に無理があるという見方は、以前からありました。
指名権の譲渡に変わると、動くのは「現役の選手」ではなく「将来の指名枠」。補償のコストは残しつつ、人が巻き込まれない形に寄せた、というのが今回の方向性でしょう。
選手会はさらに先を求めている
今回の合意で補償の形は変わるものの、選手会の要望はそこで止まっていません。
FA権の取得年数を国内・海外ともに6年へ短縮すること、そして補償制度そのものの撤廃を、引き続きNPBに求めています。12球団のあいだでも賛否は分かれていると報じられており、ここから先の議論はまだ続きそうです。
2029年オフの見直しが、次の分かれ目になるのでしょう。
FA権のよくある質問
FA権を取っても使わないとどうなる?
権利は消えません。そのまま保持し続けられます。
翌年以降に宣言することもできますし、使わないまま引退する選手も珍しくありません。
FA宣言したら、もう元の球団には残れない?
残れます。
公示の翌日からは元の球団とも交渉でき、話がまとまればそのまま残留。これが「宣言残留」と呼ばれるパターンです。
外国人選手にもFA権はある?
日本の球団に長く在籍すれば資格は得られます。
ただし補償のランクを決める年俸順位は日本人選手だけで並べるため、外国人選手は補償の対象外という扱い。
ポスティングとFAはどう違う?
ポスティングは、FA権を取る前の選手が球団の許可を得てメジャー移籍を目指す制度です。
球団が認めなければ使えず、譲渡金も球団に入ります。FA権は年数さえ満たせば球団の許可が要らない、というのが最大の違い。
有資格者はいつ分かる?
毎年10月にNPBが公示します。2026年は10月19日に発表されました。
球団ごとの一覧もそこで公開されるため、オフの動きを追いたい人はここが出発点になります。
まとめ
FA権は、1軍登録145日以上のシーズンを積み重ねて手に入れる「球団を選べる権利」です。
国内FAは高校卒で8年・大学社会人卒で7年、海外FAは一律9年。2回目以降は4年で取り直せます。
補償は年俸ランクで決まり、Aランクなら選手1人+年俸の50%、Cランクなら補償なし。プロテクト28人から漏れた選手が指名される仕組みが、長く続いてきました。
そして2026年10月30日の合意で、人的補償は2027年オフから廃止。今オフも、35歳以上の選手はすでに補償が不要になっています。
オフの移籍ニュースは、この順番さえ押さえておけば一気に読みやすくなるはずです。
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